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2023年8月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【33】

発想力から生まれた技ありの秋田杉のぬか櫃 樽冨かまた

W28.5×D22.5×H15.5 4万2900円(税込、送料無料。単位は㎝。高さは500㎖の空き缶、幅はA4用紙1枚程度。ぬか床2㎏から始められます)
 ぬか床はプラスチックやホウロウなどを使うと野菜から出た水分が溜まり、すくって捨てるさいに塩分もうま味も栄養も一緒に捨てることになります。しかし、調湿性に優れた杉なら、水分を吸収して外に吐き出してくれるため、ぬか床の水分量は一定に。
 13代目・柳谷直治さん(26歳) はぬか漬けを作ったり、家電屋で冷蔵庫の中の寸法を測ったり、製薬会社の研究員だった父親とともに学術面からぬか床の微生物も調査研究。その結果、キュウリを丸ごと漬けられる、シンクに置いてもかき混ぜやすい、旅行のさいは冷蔵庫にしまえるなど、使い手の希望を叶えるこの形とサイズにたどり着きました。もう一つの特徴は、縁に塗られた漆。木製のぬか床容器は縁にぬかがこびりつき、空気に触れてカビが発生します。この弱点、こびりつきを拭きとれるように施した工夫なのです。
 「『櫃【ひつ】』という字を貴いものをしまう箱だと捉えています。大切なお米から削りとったぬかにはお米の95%の栄養があり、そのぬかのためのおひつがぬか櫃です。和食の原点、一汁一菜から考えて、あとは手前みそのためのみそ櫃。この三つで、みなさまの毎日の健やかな食事に貢献したい」(直治さん)(『食べもの通信』2023年8月号 一部抜粋)  

◎問い合わせ 
樽冨かまた
秋田県能代市末広町4-3
TEL:0185-522539
https://www.tarutomi-kamata.com/



 

2023年6月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【32】

170年以上続く桶樽屋 秋田杉のおひつ 樽冨かまた

(写真左から) 2合用 ふた外径19cm×全体の高さ13㎝ 2万8600円 2・3合用 ふた外径22.5cm×全体の高さ13㎝ 3万800円 3合用 ふた外径21.5㎝×全体の高さ16㎝ 3万800円 (いずれも税込、送料無料)
 「おいしいご飯を食べるには、高価な炊飯器よりおひつを持つこと」。そう語るのは人気の料理研究家・有元葉子さんです。ご飯は炊飯器で保温すると、時間がたつほど劣化します。土鍋で炊いて放置すれば、水滴でべちょべちょに。ところが炊いて蒸らしたあとおひつに移すと、冷めてもふっくらもちもち、甘みもしっかりキープしてくれます。
 13代目・柳谷直治さん(26歳)が「杉はやわらかくて密度が低いので調湿性に優れ、おひつにはベストな木材です」と教えてくれました。
 使用するのは樹齢80~120年の秋田杉。まず、曲がりなたで小割にし、削りながら板の厚みを決めます。その後、この板を円形に隙間なく並べ、安全性の高いのりで接着。底板をはめたら上下になる箇所の厚みを変えて削った竹を編み、この竹たがで本体を締めます。丁寧な手仕事が付加価値を高め、購入は数カ月待ちという人気ぶりです。
 長く使うには、洗ったあと完全に乾かすこと。乾きが不十分だと黒ずみが出たり、雑菌が繁殖してしまいます。「ベストは二つ使い。乾かしながら、交互に使ってほしい」(直治さん)。(『食べもの通信』2023年6月号 一部抜粋)  

◎問い合わせ 
樽冨かまた
秋田県能代市末広町4-3
TEL:0185-522539
https://www.tarutomi-kamata.com/



 

2023年2月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【31】

コーヒーキャニスターと茶筒 桐匠根津

容量コーヒー豆200g、W16.5cm×D9.5cm×H約9.5cm  6380円 (奥)茶筒(中ふたつき)  容量約200g、Ф7.5×13.8  6880円(いずれも税込)
 茶筒は伝統工芸品、コーヒーキャニスターは桐匠根津(群馬県みなかみ町)の四代目・根津安臣さん(32)が始めた自社ブランド「ポローニアリーフ」(桐の葉っぱ)の製品です。国産桐を大切に使い切るという思いを込めたブランドです。
 「桐は1年間で杉の9倍以上の二酸化炭素を吸ってくれます。しかも、伐採しても脇芽がまた木になる。環境に貢献でき、時代にすごく合っています」(安臣さん)
 若い人にも桐が身近な存在になるようにと、生活雑貨を製作。その一つ、コーヒーキャニスターはふたのみを柿渋仕上げにしたツートーンカラーで、中ぶたは梅を模した金の持ち手が付いています。SNSで紹介すると友人ら約50人が直接買いに訪れ、ネットでも200個が即売でした。
 茶筒は一つの木を切り抜いて筒とふたを製作し、表面を焼いてすすを払い、砥粉(ルビ=とのこ)(焼いて粉末状にした粘土)を塗り、ロウ引きをして磨き上げる伝統技術「時代仕上げ」を施します。現在、時代仕上げができるのは全国でもわずか数件というから貴重な工芸品です。(『食べもの通信』2023年2月号 一部抜粋)  

◎問い合わせ 
桐匠 根津
群馬県みなかみ町月夜野262
TEL:0278-62-2715
kirishounezu.info@gmail.com
リンク先
lit.link/kirisyounezuyondaime


 

2022年12月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【30】

新潟産桐の米びつ 桐匠根津

10㎏…1万3800円(W28.8×D21.7×H32.5) 5㎏…8800円(W21.8×D19.7×H22.5) 3㎏…6880円(W21.8×D19.7×H22.5×H14.5)。いずれも税込。単位は㎝。板厚は1・5cm。若干の誤差あり。 一合の升付き。サイズ、スライド式のふた、キャスターの 取り付けなどオーダー可能です。
 米は空気にふれると酸化やカビ、乾燥などで劣化していきます。ところが桐の米びつに入れると品質が保たれ、おいしさが長持ちします。なぜか。
 桐匠根津の四代目・根津安臣さんは「一番すごいところは、木材のなかでトップクラスの調湿作用です。湿度が60%以上にならない。カビが繁殖するのは湿度70%、気温20度以上。その条件を作らないのです」と力説します。実際にプラスチックケースと桐箱に食パンを入れた安臣さんの実験でも、5月前半の9日間で前者にはカビがびっしり。後者は乾燥したものの、2年たった現在もカビはいっさい生えていません。さらに安臣さんは、「桐はセサミンやキシリトールなどの成分による抗菌や防虫作用にも優れているし、木材では稀な弱アルカリ性で、米(弱酸性)を入れると中和反応で酸化を抑えてくれます」とも。
 付属の升は通常の形状を縦にした形で、すり切りで1合サイズ。最後の1粒まですくえる技あり品です。
 「化学物質過敏症のお客さんも多いですが、うちの米びつで症状が出なくなったと喜び、まな板など一式購入した人もいます」。どうしても不安な場合は、注文時に申し出を。米国製でFDA(アメリカ食品医薬品局)の検査をクリアした有機溶剤不使用のもので対応してくれます。(『食べもの通信』2022年12月号 一部抜粋)  

◎問い合わせ 
桐匠 根津
群馬県みなかみ町月夜野262
TEL:0278-62-2715
kirishounezu.info@gmail.com
リンク先
lit.link/kirisyounezuyondaime


 

2022年9月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【29】

焼き網 京の金網細工・辻和金網

●銅手編み手付焼網  横22.5×縦22.5×長さ33.5(cm) 9900円 ●ステンレス手編み手付金網  15×15×29.5(cm) 8250円 すべて税込。機械編みは3850円~。
 起源は平安時代といわれる京金網。銅線を六角に編む伝統の亀甲編みは、温かさと雅やかな光を放ち、優美さを好む京の人びとの暮らしのなかで発展してきました。
 京都御所のほど近くで、1933年に創業した老舗「京の金網細工 辻和金網」の焼き網は二重構造。下の網がガス火を分散させ、上の網にのせた食材をやわらかい熱で焼き上げます。だからパンは外がカリッと香ばしく、中はふんわりもっちりに。もちや干物、イカ、油揚げ、きのこ、焼きおにぎりも同様です。野菜は甘味が引き出され、油を使わないからヘルシーです。
 食材を直接のせる網は銅またはステンレス製で、手で一つひとつ編む亀甲編みと、四角い網目の機械編みがあります。手編みと機械編みでは焼け具合はほぼ同じものの、その美しさは歴然。泰宏さんのものづくりの肝は「使い勝手のよさ、丈夫さ、見た目の美しさ」。やりがいは? 「それはもう、お客さんから『きれいに焼けた』『使ってよかった』と言われること」。(『食べもの通信』2022年9月号 一部抜粋)  

◎問い合わせ 
京の金網細工 辻和金網
京都市中京区堺町通夷川下る亀屋町175
TEL:075-231-7368
FAX:075-231-7344
インスタグラム
https://www.instagram.com/tsujiwakanaami/
ホームページ
http://www.tujiwa-kanaami.com/


 

2022年5月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【28】

わらの鍋敷き 新潟県糸魚川市・はしだて

小 15㎝ 1320円 中 18㎝ 1650円 大 24㎝ 2200円 (すべて外径、税込み)
 最近、若い世代を中心に「かわいい」「おしゃれ」と人気が高まるわらの鍋敷き。「はしだて」(糸魚川市)は地元産にこだわり、伝統文化が包含する日本人の心を大事にしたものづくりで、正月飾りや草履などのわら細工を製造・販売しています。鍋敷きに使うのは、地元農家が稲を天日干しする「稲架掛け」をしたわら。手間暇がかかり重労働のため、現在は稲架掛けする農家はわずかです。その貴重なわらを熱風乾燥させて、1年ほど寝かせてから使います。
 豊かな自然で育ち、太陽をたっぷり浴びたわらは一本一本、色や太さが違います。それを手作業で一つひとつ丁寧に編み込んだ鍋敷きは素朴な風合いがあり、どこか懐かしいぬくもりが感じられます。
  三代目の橋立茂樹さん(43)は「バランスがよく、どっしりして安定感があります。わらは鍋が滑りにくく、とくに稲架掛けしたものは耐久性があり長く使える。昔の人の知恵ですね。使わないときは壁にかけるだけで絵になりますよ」とにっこり。「わら細工には資源を大切にしてきた日本人の心があります。わらを年神様を迎える縁起物と考えた日本人の精神性も、後世に伝えたいです」(『食べもの通信』2022年5月号 一部抜粋)  

◎問い合わせ 
株式会社はしだて
新潟県糸魚川市桂604-1
TEL:025-566-2978
FAX:025-566-3088
http://www.hashidate-dento.co.jp/official/profile.html


 

2022年3月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【27】

かつお節削り器 新潟県三条市・山谷製作所 台屋

赤香:ウォルナット×青紙 幅65×高さ58×長さ205(㎜) 重さ490g 1万3750円 SKは9900円 同:ブナ×青紙 1万2100円680g SKは7700円 ベーシックサイズは80×58×247㎜  *かつお節や刷毛なども別売りしています
 打刃物で知られる新潟県三条市の工房「台屋」(カンナ台製造メーカー・山谷製作所内)のかつお節削り器。枯節をのせてシュッシュッと削ると、豊かな香りが広がります。市販のパックとは別物と思うほどの濃い味わいです。
 山谷製作所は大工道具であるカンナの持ち手を作るメーカー(1946年創業)です。カンナの刃は先に行くほど薄くなるくさび型。鍛冶職人が手仕事で作る刃は1枚1枚、微妙に厚みや角度が違います。その刃に合わせて台座となる木を削り、固すぎず緩すぎずに刃をピタッとはめて仕上げるのが、山谷製作所の仕事。経験と繊細な感覚が求められます。
 最大の特徴は切れ味。母親に頼んで購入したという9歳の女の子は、「そんなに力はいらず、軽々と削れました。ふわふわのかつお節ができて、削りたてのいい匂いでした」と喜びの声を寄せました。俊輔さんは「味に敏感な子どもたちが『おいしい』と食べてくれるのはうれしいですね」と語ります。(『食べもの通信』2022年3月号 一部抜粋)  

◎問い合わせは山谷製作所
新潟県三条市東新保12-19
TEL/FAX:0256-34-5989
https://www.dai-ya.com
 


 

2021年11月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【26】

ごま煎り(焙烙) 伊賀焼窯元・土楽

ごま煎り(長さ20㎝×高さ6.5㎝)2200円(税込)
 急須に似た形状のごま煎り器は、「江戸時代からあった」(土楽七代目・福森雅武氏〈77〉)という伝統的な道具です。福森氏が50年前にデザインした土楽のごま煎りは、下部がしじみのようにふくらんだフォルム。ゴマが弾けて飛び出ないように、上部の口は小さめです。全体が橙に近い赤味を帯び、アクセントの模様と相まって、茶道具のような気品をまといます。
 太古の昔、琵琶湖の湖底だったこの地域の土には、当時の生物や植物が長い時間をかけて有機物となり、堆積しています。この土を高温で焼くと、有機物が燃えて小さな穴を作ります。その穴に空気が入り熱伝導を緩慢にするため、食材にじっくり火が通ります。焼く前に全体に塩水をスプレーし、わらをかける「火だすき」という技法を用いることで、一つひとつが一点ものの美しい仕上がりに。
 「ごまは煎りたてが一番おいしい」という八代目の福森道歩さん。使い方を教えてもらい、やってみました。ごま煎りに洗いごまを入れて、弱火にかけます。小まめに振り、パチッパチッと音がしだしたら火を止めます。そのまましっかり振ると、遠赤外線効果でムラなく火が通ります。ごまをすり鉢にあけて擦ると、香ばしい香りが広がります。次に塩を2、3分煎ってみると、塩味がまろやかに。玄米やソバの実、ナッツなども試してみたくなりました。(『食べもの通信』2021年11月号 一部抜粋)  

◎お問い合わせは伊賀焼窯元 圡楽
三重県伊賀市丸柱1043
電話:0595-44-1012
 


 

2021年5月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【25】

曲げわっぱのマグカップ 木曽路・小坂屋漆器店

4500円 容量300ml 重量34g(税抜。食洗器・電子レンジは使えません)
軽量、丈夫、高温にならない
木の特性を生かした優れもの
 
 子どもや高齢者、ハンデキャップをもつ人にも使いやすく、環境にも優しい曲げわっぱのマグカップ。製作するのは前回(2021年3月号)に続き、木曽路最大の宿場町・奈良井宿に工房を構える小坂屋漆器店の当主・小島貴幸さん(56歳)です。
 まず驚くのはその軽量さです。カップの重さは高齢者やハンデキャップをもつ人には負担になりますが、小島さんのカップは非常に軽く、扱いやすい。ガラスやプラスチックは軽量化を求めて薄くすると割れますが、木は落としても割れません。
 さらに、熱湯を注いでもカップが高温にならず、手のひらにじんわりと熱を感じる程度。子どもも安心して使えます。 
 「塗料に不可欠な乾燥剤には、ホルムアルデヒトなどの有害成分が入っています。乾燥材を必要としないのは植物の油と漆だけ」(小島さん)。そのため、仕上げは抗菌・殺菌効果が高い本漆を、伝統の職人技「直擦(じかす)り」で3、4回重ねて塗ります。
 SDGs(持続可能な開発目標)で「つくる責任 つかう責任」が掲げられ、少ない資源を有効活用し、かつ良質なものを作ることも求められるいま、注目したい逸品です。   (『食べもの通信』2021年5月号 一部抜粋)  

 ◎お問い合わせは小坂屋漆器店
長野県塩尻市奈良井709 
電話 0264-34-3406 

2021年3月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【24】

曲げわっぱの弁当箱 木曽路・小坂屋漆器店

弁当箱 2段重ね(上段210cc×下段350㏄)1万1660円~。ほかに1段の弁当箱も。サイズは大、中、小があります。【価格は税込。21年9月現在】
「木の王様」天然ヒノキと
天然サワラの最高級弁当箱


 若い人にも人気が高まる曲げわっぱの弁当箱。先祖代々続く小坂屋の当主で、伝統工芸士(国家資格)の小島貴幸さん(56歳)が作る弁当箱は、レトロ感がありつつ、スタイリッシュなデザイン。深みのある明るいブラウン色と美しい木目が温かみを感じさせます。詰めた熱々のご飯は数時間後も冷え切ることなく、べちゃっともせず、粒が立ってうま味が保たれています。
 側板に使うのは木曽の天然ヒノキ。美しさや強度、しなり、抗菌性、香りなどに優れた「木の王様」です。ふた板と底板は吸水性があり、酸化防止力の強い木曽の天然サワラ。継ぎ目には自ら山でとる山桜の木皮を使い、ご飯粒と漆、ヒノキの木くずで作る接着剤「こくそ」で補強し、全体に純度100%の漆を施します。安価なウレタン塗装の製品が多く出回りますが、小島さんは「徹底的に化学製品は使わない。食べても毒はありません」と、胸を張ります。
 電子レンジは使えません。ほかに使用上の留意点を尋ねると、笑って一言。「普通に使って壊れるものは作らない。落としても割れないから、いっさい気ぃ使わんでいいよ」。堅実なものづくりへの、自信と誇りに満ちていました。(『食べもの通信』2021年3月号 一部抜粋)  
 

◎お問い合わせは小坂屋漆器店
長野県塩尻市奈良井709
電話 0264-34-3406

2021年1月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【23】

蒸し鍋 伊賀焼窯元・長谷園

ヘルシー蒸し鍋 黒・白 大(3~5人用 直径31cm×高さ20cm/3000ml/5.3㎏)1万3200円、中(2~4人用 〃 27cm× 〃 18cm/2000ml/3.5㎏)1万1000円 【価格は税込、21年9月現在】
400万年前に琵琶湖の湖底に堆積した
土で作られる土鍋
 手にしたヘルシー蒸し鍋は、粗土独特の風合いがあり、ぽてっとした丸みとザラッとした手触りが何とも心地いい。伊賀焼最大の特徴は、原料の土です。400万年前に生息していた生物や植物を多く含む土は、窯の高温で焼くと有機物が燃え尽き、細かな気孔ができます。調理のさい、その気孔が蓄熱し、食材に均一に熱を伝えます。蒸し料理なら短時間火にかけたあと、鍋が余熱でじっくりと食材のうま味を引き出してくれます。
長谷園の土鍋コーディネーター・竹村謙二さんは「このような気孔は人工的には作れない」と言います。「長谷園の土鍋は、側面をあえて削っています。表に気孔を出すと表面積が増えるので、火の当たりが柔らかくなり、遠赤外線効果も高まるんです」。(『食べもの通信』2021年1月号 一部抜粋)  
 

◎◎お問い合わせは長谷製陶株式会社
 三重県伊賀市丸柱569

(東京店)渋谷区恵比寿4-11-8 1F
TEL:03-3440-7071

www.igamono.co.jp


 

2020年11月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【22】

すり鉢 愛知県・ヤマセ製陶所

すり鉢 6号(直径18cm×高さ8cm)3000円 5号(15×6.5)2400円。サイズはほかにもあります。【価格は税込、21年9月現在】
明治時代から受け継いできた
ものづくりの技と心意気
 適度な重さで安定感があるすり鉢。製作するのはヤマセ製陶所(明治創業)の3代目・杉江孝夫さん(77)と4代目の匡(きょう)さん(46)です。一つずつ丁寧に入れられた細かな櫛目は、深い火色がレトロな雰囲気を醸し、美しさが目を引きます。ガラス質の釉薬「土灰釉」(自然釉)が施された側面は、手に馴染む滑らかな感触。いりゴマをザッと入れてすりこぎで擦ると、プチプチという音とともに香ばしい香りが立ちのぼります。
 櫛目がないなど、目新しさを装ったすり鉢が次つぎと登場するなか、2人は孝夫さんの父で2代目の茂さんが確立した製造方法と形状を守り、機能性に富んだ「本来のすり鉢」を作り続けています。
 匡さんが「卸売業者は質より値段と奇抜な形を求めてくる。でも、お客さんは違います。イベントで買ってくれた人が翌年、すり鉢で作ったというクッキーを持って会いに来てくれた。うれしすぎて泣けました。お金じゃないですよね」と力を込めると、孝夫さんもうなずきます。
 伝統や価値観も消費される時代に、連綿と受け継がれる技と心意気が詰まったすり鉢は、本物に触れる心地良さを教えてくれます。(『食べもの通信』2020年11月号 一部抜粋)  
 

◎お問い合わせはヤマセ製陶所
愛知県常滑市多屋町1丁目18番地
TEL:0569-35-2743
http://suribachiya.com/


 

2020年9月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【21】

しょうゆ差し 東京都墨田区・岩澤硝子さん

江戸前すり口醤油注ぎ大 100㏄ 1320円、小 50㏄ 1210円【価格は税込、21年9月現在】
日本のガラス製作を守り
支える町工場 
 
 しょうゆ差しの液だれに、ストレスを感じたことはありませんか。職人が鍛錬を積んだ伝統の技で一つずつ手作りする岩澤硝子(創業1917 <大正6>年)の「江戸前すり口醤油注ぎ」は、絶妙な厚みをもたせたガラスで、シンプルながらぽてっとしたやわらかさを感じさせるフォルム。しょうゆの出方は細めで量を調節しやすく、出かかった一滴がビンを縦にした瞬間にひゅっと中に吸い込まれ、少しも液だれしない優れものです。 
 「しょうゆ注ぎのビンと栓は製法が違います。その両方を作る技術とすり愚痴の技術を持っている工場は、もう2、3社しかない」という岩澤宏太・代表取締役(41歳)。ことし2月以降は新型コロナウイルスの影響でキャンセルが続き、「仕事は半分ぐらいに減っています。でも、うちが廃業すれば技術も工場も途絶え、ここでしか作れない製品は消えてしまう。責任とやりがいを強く感じています」
 日本のガラス製作を守り、支える町工場です。(『食べもの通信』2020年9月号 一部抜粋)  
 

◎取り扱い店 産業観光プラザ すみだ まち処

Tel:03-6796-6341

https://machidokoro.com


 

2020年7月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【20】

木の器 福井県・小島尚さん

上から時計回りに サラダボウル(ガラスコート)直径20cm×高さ5.5㎝ 1万1000円 フリーカップ赤 青(漆+ガラスコート)7.5㎝×6cm 5830円 小鉢(漆+ガラスコート)10cm×7.5㎝ 8360円【価格は税込み、21年9月現在】
「安全とは言えないものは売らない」
安全性、品質、デザインの力にこだわる 
 
 木製の食器は温かみが感じられ、食卓を華やかにします。落としてもガラスのように割れる心配がなく、子ども用にも人気です。でもいざ購入るときに「ウレタン塗装」の表示を見つけ、購入を諦めた経験はありませんか? 
 「自分がいいと思ったものしか販売できない」と言う小島尚さん(44歳)は、物づくりに真摯に向き合う木工作家です。
 小島さんは長く使える良質さと、デザインの力が感じられる物づくりを追求しています。その一つは水分を吸収し、傷みやすい木の性質上、欠かせないコート剤です。一般的に多いのはウレタン塗装ですが、シンナーを溶剤に使います。「塗膜は丈夫ですがシンナー臭が残る。安全と言い切れない物はお売りできません」。
 替わりに使うのはオイルにミツロウワックスを混ぜたオイルワックス、ガラスコート、漆の3種。「オイルは亜麻仁油などの食用油が、高価ですがベスト。市販されているのでご自宅でも手入れができます。ガラスコートは耐熱、耐水、撥水性があり、木の表情が楽しめます。圧倒的に持ちが良いのは漆ですが、木目は隠れてしまう。漆が好きな方も多いですが、原材料が高く手間が段違いに多いので、高額になります」 
 10年使っているという漆コートのお皿を見せてもらうと、一部が透明感のあるべっ甲色に。そこに木目が浮かび、宇宙空間のような深味を帯びていて目を奪われました。「洗ったあとに拭くことで磨かれて、経年変化したんです。天然樹脂のパワーですね」(『食べもの通信』2020年7月号 一部抜粋)  
 

◎問い合わせ

〒912-0218 福井県大野市可合20-57-5

nkojima534342@gmail.com
インスタグラム#小島尚で検索すると、作品と出店スケジュールが見られます。

 

 


 

2020年5月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【19】

ご飯用土鍋 滋賀県・土鍋工房 六鍋

3合炊き 3万800円(外径22cm×高さ14cm 重さ3.2㎏)。5合炊き 4万1800円【価格は税込み、21年9月現在】
丈夫で扱いやすく
お米のうま味引き出す形状
 岩田紘一さん(39歳)は独立して6年目にしてすでに、ミシュランガイド掲載店などのプロの料理人から注文が相次ぐ、土鍋専門の作家です。「料理人に実際に使ってもらい、濡れたままでも、1日に何度炊いても割れず、強い火力にも耐えられる土鍋を作っています。目止めは不要。急冷しても大丈夫です」
 鍋底の厚みは12㎜、周囲は10㎜厚で均一に成形。さらに、鍋の内側を丸く削ることで米がスムーズに対流し、熱がまんべんなく伝わります。
 強火で10分。空気穴から湯気が吹き出し沸騰したら、弱火に。いい香りが漂いはじめます。10分後に火を止めて10分蒸らして出来上がり。ふたは鍋の内側にしっかりと収まり、吹きこぼれはまったくありません。湯気の奥に、余熱でじっくりたけた艶やかなご飯粒。噛むと口中にうま味が広がります。
 「冷めてもおいしいし、服るkなったお米もおいしく炊けます。土鍋は常に空気を吸っているので、布巾をかければおひつとしても使えます。空焚きは厳禁です。お米を炊くほど自然に目止めができるので、鍋の強度が増します」(『食べもの通信』2020年5月号 一部抜粋)  
 

◎問い合わせは土鍋工房 六鍋 
滋賀県東近江市宮川町244-426
TEL:0748-26-7754

https://rokunabe.com/

 


 

2020年3月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【18】

益子焼の器 大誠窯

お皿 4400円(直径175㎜×高さ28㎜)。マグカップ 4950円(本体直径90㎜×高さ85㎜)【価格は税込、21年9月現在】
すべてを手作り 自然の風合いと
わの重厚感が織りなす温かみ
 現在も使用される益子の登り窯のなかで、最大規模の登り窯を有する大誠窯は、1861年創業。伝統的な材料と製造法を守りつつ、現代の生活様式に合った器を制作する七代目、大塚誠一さんが作る器は自然の風合いと和の重厚感が温かみを醸しつつ、和洋どちらの料理にも合うモダンな雰囲気。マグカップは厚みと丸みを持たせた縁がつるんと柔らかな口当たりです。
 大塚さんは陶土や釉薬(うわぐすり)、窯焼きに使う薪など、すべて自分の手で作ります。創業以来約160年間使う登り窯は、2011年3月11日の東日本大震災で倒壊。大塚さんは益子の土で窯を基礎部分から作り直し、使える部屋(焼成室)は修繕し、7カ月かけて再建しました。
 生活雑器に特別な魅力を感じるという大塚さん。「昔も今も実用性がある陶器には、共通する必然性といいリズムがあります。合理性だけ追求すると、それらが薄まっていく。意識的に伝統にとどまり、ときには戻りながら作っていきたいです」(『食べもの通信』2020年3月号 一部抜粋)  
 

◎問い合わせは大誠窯 
栃木県芳賀郡益子町城内坂92
TEL:0285-72-2222
 


 

2019年1月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【17】

本榧のまな板 SHOP榧工房 かやの森

本榧まな板 角丸(厚さ2㎝)、大 4320円(長さ34×幅22㎝)、中 3780円(30×20㎝)、小 2916円(26×22㎝)*すべて税込み
きめが細かく、気品ある艶やかなきはだ色
ほのかにシナモンに似た香り
 トントントントン。包丁の当たる音が柔らかい榧(かや)のまな板。「生まれてくる子どもたちに聞かせたい音」と評されています。
 イチイ科常緑高木の榧木(ルビ=かやのき)は大きく育つのに300年以上かかるため、希少価値が高く、ほとんど流通していません。
 高知市で80年の歴史ある種苗会社を営む前川穎司(えいじ)会長は、榧に魅せられて30年前から種をまき、育てた苗30万本以上を植樹しています。「榧に惚れちゅう。木の中で一番きれいだと思う」(前川さん)。まな板は気品を感じさせる艶やかなきはだ色。きめが細かく、すべすべとした滑らかな肌触り、ほのかにシナモンに似た香りがします。
 
速乾性、抗菌性に優れ
食材を切る手が疲れない
 妻で同社専務取締役、兼「かやの森」店長の・美智子さんも、榧の魅力については雄弁です。「榧の速乾性はナンバーワン。抗菌性が高く水に強いので清潔で、黒カビが出にくいです。そのうえ、弾力があるので食材を切る手が疲れず、包丁の刃も傷めません。まな板の材ではネコヤナギに次ぐ適材です」。
 3枚愛用しているという同社社員の橋田直之さんに使用上の留意点を聞きました。「水に濡らしてから使い、使用後は裏や側面も水洗いして、軽く水気をきり、立てかけておけばすぐに乾きます。熱湯をかけたり、乾燥機には入れないでください。表面の荒れが気になってきたら、無料で削り直しします。新品のようになりますよ」 (『食べもの通信』2019年1月号 一部抜粋)  
 

◎問い合わせ

榧工房 かやの森
高知市相生町6-3
TEL:088-883-5202
FAX:088-883-5208
https://www.kayanomori.com

 

2018年11月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【16】

鉄製の中華鍋 鍛造作家 河原崎 貴さん

小13000円(240×60×350×116㎜) 大15000円(同270×70×380×126㎜)

 カンコンカンコンと響く音。オレンジ色に熱した円盤状の鉄板を少しずつ回転させ、水をたっぷり含ませて重くした木づちを振り落とす。鉄板の中ではがれた鉄の酸化被膜が跳ね上がり、みるみるうちにきれいなボウル型に整った。仕上げのさび止めはラッカーなどの塗料は使わず、サラダ油を塗る。
 女性でも容易に持ちあげることができる河原崎さんの中華鍋。東京・丸ノ内のショップに置かれると、30代の女性を中心に人気に火が付いた。「自分のために作られた」。そう感じられる余白をもたせたシンプルなデザインと使いやすさに、二つめ、三つめと買い足すリピーター、鍋ぶたを特注する人も増えている。
 「手仕事のいいところは、お客さんが欲しい物を作れること。修理やクリーニングもしますので、捨てたり、買い替えるストレスを感じずに、安心して長く使ってもらえます」 (『食べもの通信』11月号 一部抜粋)


◎問い合わせ

ギャラリーsen
長野県松本市中山6573
1000_gallerysen@gmail.com
インターネット販売はHARMONICS.(ハーモニクス)
https://www.harmonics-shop.com/SHOP/k-88.html 

2018年7月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【15】

サクラとクリの木べら くりもの職人 大久保公太郎さん

(左から)右利き用3本までサクラの木べら3300円~、クリ3300円~
 材料はサクラとクリの木。塗装はせず、南京ガンナ(両手持ち用の曲線形に削るカンナ)の削りだけで仕上げた木べらです。サクラはほんのり赤みがかった温かい色味で、滑らかな肌触り。クリはかすかに黄味をおびた薄いベージュ色で、生木の質感と真っ直ぐな木目が特徴です。持つとどちらも軽く、指に自然に沿う丸みが、繊細な手仕事を感じさせます。作者の若き職人・大久保公太郎さん(38)を、長野県松本市の工房に訪ねました。 (『食べもの通信』2018年7月号 一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
Gallery sen
長野県松本市中山6573
1000.gallerysen@gmail.com
メール、または手紙でお問い合わせください

2018年5月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【14】

富士北麓のスズ竹ザル

中皿、六手皿、小ザル(3合、5合)など。価格は2000円~。
お米をとげば
「普通米が高級米に」
 雄大な富士山を眼前に望む富士河口湖町勝山のスズ竹伝統工芸センター。畳部屋で8人ほどが等間隔に敷いたござに座り、黙々とザルを製作していました。
 「お米をとぐと、うまいでよ(おいしいよ)。普通の米がコシヒカリになっちゃう」。誇らしげに語るのは小佐野勝重さん(70歳)。
 勝山のザルは四角から円形に切り替える部分だけ、表皮を裏返して編み込みます。このため目が詰まっていても水きれは抜群。米をとぐさい、ぬかのにおいや雑味がつきにくいうえに、竹が柔らかいのでお米も割れにくく、おいしく炊きあがります。
 ゆでた枝豆や野菜の水きりのほか、焼きたてのパンをのせても蒸気がこもらず、重宝します。また、「蕎麦やうどんをのせるのにも適しているので、全国の蕎麦屋から注文がきます」と、同センター代表の在原建男さん(70歳)は言います。
 使用後はよく乾燥させること。縁に水が溜まりやすいので逆さにして、日陰干しにするのがベストです。使い込むほど、緑がかった淡い黄色は深い褐色に変わり、風合いの変化を楽しめます。 (『食べもの通信』2018年5月号 一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
富士河口湖町勝山
スズ竹伝統工芸センター
Tel:070-4112-9831

2018年2月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【13】

南部鉄器の急須 岩鋳

ざくろ 700ml 16200円(レッドなど。web限定)。アラレや「毬あそび」等のデザインも。
保温性に優れ
茶葉のうま味じっくりと
 南部鉄器といえば鉄瓶が一般的なイメージですが、岩鋳は鉄瓶のほかに急須や鍋なども製造しています。なかでも急須は、代表的なあられ模様やざくろ石を模した24面体、毬(まり)の模様など洗練されたデザインと色彩が海外でも高く評価されています。
 保温性に優れ、時間が経っても冷めにくい鉄器の急須。茶葉のうま味がゆっくり引き出されることと、磁器などに比べて堅牢なのが特長です。 
 鋳型は粒子が細かい砂と水、粘土分、でんぷん、墨の粉を混錬して作ります。「工芸品は肌が命。天候に合わせて水分調節をしますが、これは職人の勘です。自分で作った型に鉄を入れてしっかりと製品になると、物づくりの楽しさを感じますね」 
 「正しい使い方をすれば一生もの」といわれ、使うほどに味わいが出る南部鉄器。急須で、優雅なティータイムを過ごしませんか(『食べもの通信』2018年2月号 一部抜粋)

◎お問い合わせ
株式会社 岩鋳
http://www.iwachu.co.jp
盛岡市南仙北2-23-9
TEL:019-635-2501
 
 

2017年10月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【12】

料理が楽しくなる包丁 藤原照康刃物工芸

左上から三徳包丁43200円 出刃包丁77760円 菜切り包丁9720円など
試行錯誤の末、「いつまでも
 使い続けたい切れ味」を実現

 「すっと吸い込まれるような切れ味で、素材を生かすのが私の包丁。タマネギを切っても涙が出ないし、トマトも潰れません」
 藤原さんの包丁は、日本刀と同じ波紋が特徴です。ずしりとした重みが手元に安定感を生み、力をかけずにすっと切ることができます。手打ちしたハンマーの跡で凹凸ができるため、切った野菜が包丁の側面から離れないストレスもありません。
 包丁の手入れは使用後に熱湯をかけて、からぶきするだけ。この扱いやすさを実現したのが、鋼をステンレスでサンドイッチした三重構造です。側面はステンレスでさびず、最高級の出羽鋼(いずはこう)を使う刃先は「いつまでも使い続けたい切れ味」と、国内外で愛用者が増えています。(『食べもの通信』2017年10月号 一部抜粋)

◎お問い合わせ
藤原照康刃物工芸
https://www.teruyasu.jp/whoweare/realedge.html
東京都目黒区碑文谷1-20-2
TEL:03-3712-8646
FAX:03-3712-8377
 

2017年8月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【11】

一般家庭で使うなら一生もの 銅製おろし金

家庭用角型(写真上)150×150㎜7992円 家庭用角長型120×160㎜7992円(税込)など 
一瞬に詰め込まれた熟練の技
使うほど焦げない鍋に
 「卵焼き用の鍋には銅が一番」。そう語るのはすし職人や一流料亭の料理人などに愛用される「玉子焼鍋」を製作する職人歴38年の三代目、中村恵一さん(56歳)。中村さんの玉子焼鍋は、保温性を高めるために銅の厚さが1.5㎜と厚めで、重厚感があります。卵をふっくら仕上げるために、鍋の余熱を考えた絶妙な厚みです。
 中村さんの卵焼き鍋は、オリジナルの銅柄を取り付けたら、鍋の内側にすずを焼き付けます。
 「すずは、焼き付けるとメッキと比べてはがれにくくなり、鍋の油なじみも良くなります。焼き付け直しできますが、家庭で使う程度なら、あまりはがれることはないと思います。一生使えて、使うほど焦げなくなる銅鍋を、ぜひ試してください」(『食べもの通信』2017年8月号 一部抜粋)

◎お問い合わせ
中村銅器製作所
http://nakamuradouki.com
東京都足立区梅田3-19-15

2017年6月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【10】

一般家庭なら一生もの 銅製おろし金

写真右から5号サイズ(21×12.5㎝)7203円 6号サイズ(20×12㎝)6804円
 銅製のおろし金は羽子板状で、表裏に「目」といわれる刃が立つ、江戸時代から変わぬ形です。現在は機械で作られるものが多く、全工程を一人でできる職人はほんのわずか。その一人、「江戸幸」二代目で職人歴60年の勅使川原隆さん(77歳)を、東京都葛飾区の工房に訪ねました。
 
潰さず切っておろすから
 水分、栄養成分、うま味がそのまま

 勅使川原さんのおろし金は目が1.2㎜ほどと高く、目の立つ方向を微妙にずらすことで目詰まりを防いでいます。目と目の間隔を広めにとるのは、おろすときの抵抗を小さくするため。使い勝手の良さを研究し尽くした、熟練の繊細な技です。
 銅製おろし金は切れ味が鋭く、細胞が潰れるセラミックやプラスチック、アルミ製と違い、栄養成分やうま味が逃げ出さず、真っ白で辛味が少なく、ふわっととした大根おろしができます。
 また、銅板自体が高価なため、銅製のおろし金は高値ですが、プロの料理人が毎日使っても30年以上もち、家庭なら生涯使える勅使川原さんのおろし金は、それ以上の値打ちが実感できるはず。(『食べもの通信』2017年6月号 一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
江戸幸(えどこう)
TEL&FAX 03-3602-1418
東京都葛飾区小菅1-28-8
(ご注文はなるべくFAXでお願いします)

2017年4月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【9】

和の趣を伝える小さな一品 雨城楊枝

「ザク(一般的な使い捨て楊枝)」15本入り520円、「末広」6本入り1050円など
細い楊枝を芸術的に加工
 香木の匂いも爽やかに漂い

 雨城楊枝の材料となる「黒文字」は、クスノキ科の香木。現在では白樺が多く使われますが、森光慶さん(二代目、66歳)はいまでも、近くの山に登って自ら良質な黒文字の枝を採取しています。
 雨城楊枝の特徴は、黒文字の皮や樹肉の白さを生かして、さまざまな細工を施すこと。閉じた扇のような形の「末広」、舟をこぐ道具に似た「櫂」、飛翔する鶴を横から見たような「鶴」など、25種類ほどの楊枝があります。
 取材中にも、森さんは小刀をスースーッと滑らせ、黒文字の枝から独特の形状をした雨城楊枝を次々と作っていきます。
「手だけに力を入れるのでなく、体で押すような気持ちで全身を使って削る。最後の仕上げは、細心の注意で小刀を動かします」
 一番難しいという「のし」は、手元の先端がのし袋の水引のように結んであるもの。紙のように薄く削られた枝は、熟練の技のたまものです。
 黒い樹皮と白い樹肉のコントラストが鮮やかで、遊び心と品格ある形状の雨城楊枝。黒文字の芳香も爽やかで、お祝いや晴れの席など、改まった機会には手にしたい、和の趣を伝える小さな一品です。(『食べもの通信』2017年4月号より一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
090-5407-6999

2017年1月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【8】

食材をふっくら仕上げる和せいろ 麻彦商店 

和せいろ おふくろセイロ 約4合用 温野菜にも 鍋付き 
和せいろ おふくろセイロ 約4合用鍋付き 6000円(税別)。サイズはほかにも取り揃えています。 
 職人が丹精を込めて作るせいろは、料理の仕上がりの良さはもちろん、30年、40年と長く使えるのも魅力です。
 湯を沸かした鍋に載せ、中に入れた食材を熱い蒸気で蒸すと、木が余分な蒸気を吸って料理が水分過多にならず、ふっくらと仕上がります。
 埼玉県川越市で98年間、せいろやふるいなどのいわゆる「曲げもの」を作り続ける麻彦(あさひこ)商店三代目・矢島清さん(69歳)。「私は冷や飯を温めるのも、せいろです。蒸し布など使わず、ご飯を直に入れます。電子レンジや炊飯器で温めるのとは違い、炊き立てのようにつやつやして、おいしくなりますよ」と言います。
 最近はせいろを使った野菜や魚、肉の蒸し料理も、栄養やうま味が逃げず、骨が身からはがれやすい、余分な脂が落ちてヘルシーと人気です。『食べもの通信』2017年1月号より一部抜粋)
 
◎問い合わせ
麻彦商店(水曜定休)
☎049-222-0651 ファクス049-226-5301
埼玉県川越市連雀町9ー2
*店頭での直接販売のほか、配送も。ただし、ネット販売はしていません。
★1升用、2升2合用、お釜で使うせいろなどもあります。細かいご要望もお気軽にご相談ください。

2016年11月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【7】

なんでも洗える棕櫚たわし 髙田耕造商店

棕櫚たわし
たわし大 3240円/細め 2700円/麦茶ポット用竹柄 3780円など(すべて税込)
 髙田耕造商店のたわしは国内外のしゅろから良質の繊維を厳選し、職人が手作業で作ります。繊維が細くしなやかで、ずっと触っていたくなるほどの心地よさ。野菜の泥落としのほか、なるべく洗剤を使いたくないまな板、ステンレスの鍋やガラス、ホウロウなども傷つけずに洗えるうえに、合成繊維のたわしと比べて耐熱性があり、高温の鍋にも安心して使えます。
 コシが強くて丈夫な中国産のしゅろ。有害物質の検査をして、国産品と同等の安全性を確認しています。たわし1個を作るのにしゅろ皮は10~15枚ほど必要です。
 かつては、和歌山県海南市の一大産業だったしゅろ。安価な輸入のパームヤシや、大量生産できる化学繊維に押され、30年以上も前に途絶えてしまいました。髙田耕造商店の職人たちは山に入り、5年の歳月をかけて紀州産しゅろのたわしを復活。貴重な紀州産しゅろはその柔らかさを生かすために、ボディーブラシに用いています。
 農薬も消毒液も不使用。子どもも安心して使え、石けんの泡立ちや洗い心地がいいと人気です。
 特別な手入れは不要。ゴミが挟まったら流水で洗い流し、熱湯消毒も可能です。(『食べもの通信』2016年11月号 一部抜粋)

◎問い合わせ
髙田耕造商店
☎073-487-1264
和歌山県海南市椋木97-2
http://takada1948.jp
★オーダーメードも可。修理も承ります。ご相談ください。

2016年9月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【6】

原材料の木材も塗料の漆も 天然もの 兵左衛門 東京支店

若狭塗り、けずり箸、小紋彫り、和紙巻など多様な形状があります。一膳800円+税~

 「箸は食べもの」と宣言する「兵左衛門」ブランド。木を削り、形を整えて、仕上げに漆を塗ることで強度をもたせる「塗箸」が主流です。

「箸先は噛んだり削れて、体に入ってしまうこともあります。国の安全基準では、合成化学塗料に漆1滴混ぜたものでも『漆塗装』と表示できますが、『兵左衛門』の箸は下塗り、中塗り、上塗りすべてに、合成塗料を一切含まない天然の漆を使っています」(細井さん)

漆は防水性や防腐性、防虫性などに優れています。漆アレルギーがある人には、天然の蜜蠟(みつろう)で仕上げた箸も。防水や汚れ防止効果があり、無色透明なため、木地の自然な風合いや柔らかな手触りが楽しめます。


◎お問い合わせ

兵左衛門 東京支店

東京都渋谷区広尾5-3-13

☎03-5783-2184 FAX03-5783-2284

◎折れたり、色落ちしたさいは修理も受付けます。また、一本から購入が可能です。また、持ち手はウレタン系の化学塗料を使った製品もあります。

 

 

2016年7月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【5】

下町からはじまった伝統工芸 江戸切子 川辺硝子加工所

グラスは左から2万5000円、2万8000円、3万円(税別)
 江戸切子に使うガラスは、灼熱(しゃくねつ)の状態で成形したものをベルトコンベアに乗せ、1晩かけてじっくりと冷ましたクリスタルガラス。「沈みがきいている」(江戸切子職人・川辺勝久さん、73歳)と表現され、普通のガラスより重く強度もあり、氷が当たるカランカランという響きやガラス同士がぶつかり合うときの音に、澄んだ清涼感を漂わせます。
 切子職人は、工業用ダイヤモンドを塗り付けたホイールを駆使して、ガラスの表面に縦横斜めの切り込みを入れて模様を描きます。
 縦横に細かく切り込みが入っているものほど作るのが大変そうだが、本当に難しいのは、グラスの胴まわりを1周するリング状の模様を入れること。「始まりと終わりがきっちり合わないといけない。リングを数ミリ間隔で2本以上入れるデザインは、同じ間隔を保ったまま1周させるのがすごく大変なんですよ」
 
◎お問い合わせ
川辺硝子加工所
☎/FAX03-3471-6116

2016年5月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【4】

職人が極めた技の結晶 巻きす 田中製簾所

巻きす2500円~、だて巻き用3000円~、ランチョンマット3500円~、コースター500円(税別)
 130年余続く工房(すだれ屋、東京・浅草)で、伝統の技と繊細な手仕事による巻きす作りを続ける5代目・田中耕太朗さん(52歳)は、国産の天然竹を使用しています。
 「一番気を遣うのは素材選びです」。成長が止まる冬に切り出した、北限の硬く締まった竹を厳選しています。
 竹は皮目が滑らかで平ら、水に強く伸び縮みせず、加工しやすうえに、防腐、消臭、殺菌作用もあります。安全性に配慮し、塗装や防かび、防虫などの処理は施しません。素材の特性と丁寧な製法により、丈夫で長持ちします。
 仕上がりの長さに切った竹は、もみぬかや塩などで洗い、なたや小刀でひご(竹を細く割って削ったもの)に成型した後、乾かします。田中さんに、一つの仕事に手間をかける理由を尋ねると、「ほかの人ができない仕事で、お客さんの細かな要望に応えるのが江戸職人の粋。手を抜いては作れません」。
 粋にこだわる職人が極めた技の結晶ともいうべき巻きすです。(『食べもの通信』2016年5月号  一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
株式会社 田中製簾所
☎03-3873-4653 ファックス03-3348-0910
サイズやデザインなど、用途に合わせてご相談ください。

2016年3月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【3】

鍛金の技が生み出す銅製の茶器 長澤製作所

(写真左から)湯沸かしあらし梅1ℓ 6万6000円/急須丸型(中)タテゴザ目380ml 1万4850円
抗菌・除菌作用で水がまろやかに
 3代目の職人・長澤利久さん(48歳)が作るのは、主にやかんや急須などの茶器です。表面の打ち出した模様がさまざまな角度に光を反射し、奥深い光彩を放ちます。
 最大の特長は注ぎ口の水切れの良さ。「職人の一番の腕の見せ所」といいます。口の先が絶妙なカーブを描いて反り返り、水が垂れるのを防ぎます。
 銅は熱して軟らかくした後、金づちで叩いて模様を入れると強度が生まれます。毎日使うからこそ、丈夫で「雑に」扱えるのも魅力です。
 また、銅は抗菌・除菌、塩素を分解する作用があるといわれ、水がまろやかでおいしくなると評判です。「熱伝導がよく、お湯がびっくりするくらい早く沸きますよ。高い温度域が長く続くので、ほうじ茶や番茶にすごく合います」(『食べもの通信』2016年3月号 一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
長澤製作所
☎03-3891-4907
FAX 03-3891-4903
用途に合わせてデザインや色など、ご相談ください。
 
 

2016年1月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【2】

ご飯がもっとおいしくなるおひつ、飯台 新井風呂桶店

おひつ1万円~、飯台6500円~、浴槽10万円~
 桶作りで一番肝心なのは、板と板の接合面をきっちり合わせること。カンナで丸三をもたせて板を削り、円形に固定してたがをはめ、底板を張ります。水漏れしないよう、以下に板をきちっと張り合わせるかが桶職人の「腕」です。「カンナだけでも、平らに削るものや丸く削るものなど、数十種類あります。道具は初代からのものもあり、三代に渡って継承されています」(新井風呂桶店三代目・荒井修一さん)。
 おひつや飯台は軽くて扱いやすく、湿気に強いサワラ製。サワラはヒノキほど香りが強くないので、ご飯の風味が損なわれません。「温かいご飯の余分な水分を吸収し、調整してくれるから、冷めても固くならず、さらにおいしくなります」。
 すばやく鮮やかな手さばきに、しばし見入ってしまいました。たちまちたちこめる木の香り。こんな爽やかな芳香に包まれて、暮らしをちょっと豊かにしてみたいと思いました。(『食べもの通信』2016年1月号 一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
新井風呂桶店
☎049-222-7125

 
 

2015年11月号 隔月連載 伝統の技キラリ!和食器具【1】

国産漆にこだわり、普段使いできる江戸漆器 角漆工

ビアカップ 4000円+税~/おわん 8000円+税~
 江戸漆器の第一人者、職人歴50年の角光男さん。江戸漆器の魅力について「寿司桶やせいろ、丼、重箱など商業用の道具として発展したため、丈夫さが勝負です。半日、水に浸けても大丈夫」と胸を張ります。
 ほかにも、油汚れが付きにくくて落ちやすく、手入れが簡単。熱やアルコール、アルカリ、酸にも強く、抗菌作用があり、湿気の多い日本の気候に適しています。漆独特の柔らかな手触りと滑らかな光沢があり、なにより天然塗料で安全です。
 現在、国産の漆は激減し、価格が高騰。国産漆は国内消費量の1~2%程度です。普段使いできる漆器を追求する角さん。国産漆にこだわり、「材料をけちらない」がモットーです。国産漆は主成分「ウルシオール」が多く高品質ですが、塗るとしわができてしまいます。そこで角さんはしわやざらつきを生かした新しい技法を生み出しました。 
 その熟練の技が光るのが、陶器に漆を塗ったビアカップ。ビールを注ぐと、内側の凹凸がきめ細かいクリーミーな泡を立たせます。味わいは、大手ビール会社の社員が絶賛するほど。水やお茶もおいしくなると評判です。(『食べもの通信』2015年11月号 一部抜粋)
 
◎お問い合わせ
角漆工
 ☎  03-3893-0839
FAX 03-3893-0489
 漆器の修理も承ります。
 
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